枡儀の本場大島紬
表現すること
枡儀の本場大島紬は「表現すること」に拘りこれまで製品化してきました。絣と呼ばれる糸に施された点。この集合によって表現される本場大島紬は計算された設計と完成形への想像力の世界から成り立っています。私たちが表現のプラットフォームに本場大島紬を選択するのは、それらが持つ特徴に理由があります。

点の集合
本場大島紬の柄は「生地に描く」のではなく、糸に付けられた点で表現されています。この点は「絣」と呼ばれ、織物の表現方法として世界各国で見られるものです。本場大島紬はこの絣が世界一細かいとも言われるほど緻密な計算によって作り出されます。
私たちが本場大島紬を選択したのはこの絣の表現方法、細かさに心を強く打たれ、大きな感動があったからに他なりません。ミリ単位で配置され濃淡までも可能とする絣の連続。それは明治より繰り返された技術の研鑽によって生み出されたもので、糸の変化と共に急速に発展進化を遂げた根源として、生地に描く事では叶わない味わい深い表現力がそこに宿っていると私たちは考えています。加えて表裏がないため、仕立て等応用を利かせやすいという絣織物ならではの利点も兼ね備えています。
ただし、絵を描くような鮮明さと一線を画す表現方法により、紙に描かれるデザインと実際の製品の間には必ず差異が生まれるため、デザインから製品、絣への想像力を必要とします。どういった規格、工程を踏まえた大島紬で製品化するのかの選択は実際の製造工程と同じように非常に重要なものとなり、その道を思い描き、進めることに当社の存在意義があると考えております。

生地の特徴とその秘密。
「紬」という名称ではありますが実際には紬糸を使用せず、生糸※1からセリシン※2を除去した練糸と呼ばれる糸を使用します。それらを少量の撚りで合わせ※3、平織で織り上げることで張りとツヤ(光沢)、滑らかさを持った軽い生地に仕上がります。この特徴が裏地を付けて仕立てた時の重さを軽減し、しなやかな着心地を生み出します。
※1 繭から引き出した糸。 ※2 絹繊維の周りを取り囲むタンパク質。 ※3 撚り数は150~300回程度/m。甘撚糸と呼ばれる。

工程が示すもの
手間暇をかけて製品化される本場大島紬。それぞれの工程が全て製品に向かって効率と工夫に満ちた手順を取り、それでいて大変高度な技術力を要するものであるからこそ、細やかな一点一点の絣が美しく並び柄を表現した製品が完成します。この工程において当社ではさらなる改変や革新はもとより、ゴールとなる製品自体の創意工夫やあり方、現代の生活との関わり方などを踏まえた改良なども必要だと考え日々取り組んでおります。

本場大島紬の数値
マルキや算など数値で表示されることもある本場大島紬について、当社ではデザインに適切なもので製品化することこそが最も重要だと考えております。
本来マルキとは経糸の絣糸本数÷80本で表現されていましたが、それまでの「一元絣」から「カタス絣」の登場(昭和後半と思われる)によってその意味は一変し、本数を現した単位から配列を意味する単位に変化しました。
また、マルキとは別の「算(よみ)」という筬羽密度(≒経糸密度)を表す単位も存在し、それぞれに柄表現上の特徴や製造上の理由を加味し製品規格として適切なものを選択しています。
以下に当社製品における呼称を簡単な表にしました。
経絣糸の割合 | 呼称(13算) | 呼称(15.5算) | 呼称(18算) |
---|---|---|---|
特殊品※1 | 華かすり | 奄美絣 | |
2/5 | – | 5マルキ(一元) | – |
1/4 | – | 7マルキカタス | – |
2/4 | 13一元 | 7マルキ一元※3 | |
1/3 | 13・9マルキ※2 | 9マルキカタス | 12マルキ |
2/3 | 9マルキ一元※3 |
当社製品基準。他社製品についてはこの限りではない。
読み方(経:たて 緯:よこ)
絣糸の割合は耳部分を除く。
※1 華かすりは経に絣糸が入ることも多いが基本的には緯の絣で柄を表現する。奄美絣は経緯の絣で表現するが経絣本数による区別はない。
※2 13・9マルキ(ジュウサンコンマルキ)は8マルキと言われることもある。
※3 一元絣は「本7マルキ」「本9マルキ」と呼称することもある。
これらの数値は一見するとスペックなどと呼ばれる能力値に見えますが、絣の表現方法であって能力とは異なります。当社としてはデザインに最適な仕様で製品化しています。