12 単衣で失敗

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

2003年頃。小売店で働くある日、先輩が安くてよく分からないアンサンブルを見つけた。

アンサンブルは着物と羽織が同じ生地で仕立てる前は一つに繋がっていることが多い。反物よりはずっと長いが、疋物(二反分の長さ)ほどはなく、昭和の時代では流通の主力商品だったと聞く。最近見かけなくなったのはアンサンブルで仕立てることが少なくなったからだと思われる。

当時の私にとってすでにアンサンブルは珍しいものだった。そして例のアンサンブルは恐らく買い手が見つからなかったのだろう、特価になっていた。先輩から「俺と半分ずつにしよう」と提案され、これはお買い得だなと思って購入することにした。そもそも​着物二枚とれるのかな?と思ったが通常より長めだったらしく二枚分ギリギリいけるとのことだった。商品を見つけたのも、長さを測ったのも先輩。見守るだけの私。先輩に恵まれていた。

しかし、何とも不可解な反物。濃紺の無地紬でちょっと薄めの地風。正絹という以外何かわからない。とりあえず単衣にすることにした。手持ちに単衣が少なく、仕事上必要性があり、裏地代も浮くという理由だった。深い濃紺で格好良さそうに思った。

イメージ。(実際のものはもっと濃紺だった)

ところが実際着てみると、これが予想外。裾捌きが格別悪い。まとわりついて、つまづきそうになっていつも通り歩けない。せっかく格好良い色なのに、超絶小股でしか歩けないので仕事着として役不足でみっともない。そう思うと何となく風合いも気に入らなくなってくる。よくよく考えると生地も大分薄っぺらいのでやっぱり袷にすれば良かったとは思ったが、仕立て直す程の熱意も持てず。なんだかんだと不満に感じつつ、とりあえずは手持ちのうちだと思って着ていたが、小売店を離職後は着なくなった。

当分の期間たんすにしまい込んだのち、最後は「着ないのであれば水洗いしてみたらどうか」と興味本位で洗ってみた。すると自分で洗ったことがさらに逆効果で凄まじい色落ちと圧倒的手触りの劣化を起こした。(水洗い可ではないので私が悪い)一応その後数回着てみてやっぱりダメだとお役御免となった。

私とその着物は最後まで良い関係を築けなかった。名前もわからない紬。けれどあの着心地、肌触り、まとわりつきは苦い経験として今でもリアルに思い出せる。そしてこの失敗で単衣と袷の違い、自分に向き不向きを知ることが出来た。