26 奄美。式典で大島紬

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

​奄美大島で驚いたのは式典にも大島紬を着用することだ。これまで学んだ着物小売店での教えに「式典で大島紬」というTPOはなかった。

着物にはいくつかの礼装があり、黒紋付(五つ紋)が最も格式が高い。紋の数や柄などで格式が色々あるが、式典などではドレスコードに従って洋服と同じようにそれ相応の着物を着る。例えば新郎は黒紋付を着る(式によって異なる場合もある)が男着物でいえば友人は黒紋付は着ない。

そもそもこの「ドレスコード」というものは主催者側の意向や地域・文化にもより、非常に難しい。色んな方とお話ししてもそれぞれお考えが異なるのだが、それでも式典で大島紬を着用することが一般的TPOとして出てくることはない。そもそも大島紬は式典で着用することを目的に製造されていない、カジュアル志向の着物である(最近はそうでないものもあり、多種多様である)。​​

しかし奄美大島の場合、結婚式でも大島紬は見かけるし(私も出席した)成人式に至っては大島紬の着用率なども集計されていた。大島紬の振袖もあったが、普通の袖の大島紬を着用する人も沢山いた(一番多かった記憶がある)。とにかく大島紬の着用は私たちが考えてきたそれとは違っていた。

地域独自の文化として、誇りを持って着用することに感動すら覚えたし、ある意味万能の装いは聖地と表現するに相応しいと思った。残念ながら街を歩いても大島紬姿の人に会うことは少なかったが、街の至るところに伝統柄や関連したものを見かけるのは産地ならではだと思う。

とはいえ、世代が変わり大島紬の生産は実に戦後ピーク時の1%近くにまで減少した。(本場奄美大島紬年間生産 昭和47年:297,628反 令和2年:3,385反 本場奄美大島紬協同組合資料より)もしかすると、この先の世代は家族に従事者がいなくなり大島紬に対する価値観も変わっていくのかもしれないけれど、私としては先の世代にも根付いていてほしい素敵な文化だなぁと思う。

イメージ画像:伝統文様「龍郷柄」のアレンジ