男と着物 3 初めての角帯の話

投稿者:ウエダテツヤ

初めての浴衣についての話を投稿したが、その後浴衣を着たかというとあまり記憶にない。忘れているだけかもしれないけれど結局お祭りあってのものだった。

初めて角帯を締めたことは鮮明に覚えている。そしてそれは私が就職してからのことだった。

大学で卒業後の進路として就職という道を選び、結局父や祖父を追うという不確かな動機のために着物の業界に足を踏み入れた。皆には内緒だったが、実は人が苦手な私は一番やりたくないことをやろうと思い、小売店への就職を修行という名の縁故で果たした。そういうといかにも格好良さげであるが、これがやりたいんだ!という確かな意志を持っていたわけではなく何とも消極的動機であったし、就職氷河期と言われた2001年において縁故で入社とは格別の待遇だった。就職活動という活動をほとんどせぬまま、「こんなことでいいのだろうか」という感覚がよぎった、というよりは働き始めるまでずっと不安であったし、一人で頑張り切れない自分に辟易としていた。

いざ入社となると同期が数々の面接をクリアーしてきたのに対し、私は初めから入社を約束された立場で、不安と自信のなさはいつしか「気合と根性」みたいなものに変貌していた。(そのよくわからない根性で随分沢山の人にご迷惑をお掛けした)新入社員研修で座右の銘を聞かれ、格好の良い同期の言葉が並ぶ中で「気合」と書いた私。座右の銘なんてものはなかったのだが、自分に足りないものだった。そんな時に角帯と出会った。

私は角帯を左から右に巻く。時計回り。これには理由があるのだが、それよりなにより初めて新入社員研修で教えてもらった時からの習慣でもある。

「おお!角帯というのか!!」と心の中で思いつつも、和のイメージが色濃く残る「京都出身」で「家族は着物の業界」そして「兵児帯なら自分で着られるぞ」というすべて無意味な虚栄心を叶えるべく、帰ってからのホテルでも練習した。このずっと後、30歳を超えてからもホテルで帯を締める研究をするのであるがまたそれは別のお話。とにかく私は私なりの「大人の帯」をようやく結ぶことができたのである。

嬉しがってホテルに備え付けの浴衣用腰ひもでも貝ノ口にしてみたりしたのは懐かしい思い出である。

初めての角帯。献上柄の綿。使いすぎて所々黄変している

2020年12月28日 | Posted in 男と着物 - 回想録 - | | Comments Closed 

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