34 家着で着物はできなかった

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

どうしても出来なかったこと。それは「家着で着物」だった。

2011年頃、外出着物生活をし始めて数ヶ月が経ち「せっかくだから全部着物にしてみよう!」と浴衣を引っ張り出して家で着たけれどなんともしっくりこない。外出用に着ていたものをそのまま家で着たので気分の問題なのか、生地の問題なのかわからなかったがワクワクしなかった。

さらに寝てみると寝相が相当悪い私は朝には酷い有様になる。これではいけないと、たまたま見つけた「何となく家用に向いてそうな浴衣」を購入してみたけれど、結果は同じ。他にも何かと不満ばかりを感じてしまった。はだける問題は紐をつけたりすれば解決できると思うけれどそれをしようという衝動も起こらなかった。そうして不満を並べる自分にうんざりした。

「私の着物へのモチベーションは外出着なのだ」ということを再認識した。四六時中着物に触れていたい訳でもなかったので、気分的にも色々と難しかった。「サザエさん」のお父さん、波平さんはスーツで出勤し家で着物を着ているけれど、それとは真逆。私は外出用ファッションとしての着物に限定していることが分かった。たまに聞く「着物を着る理由」には「布に包まれたい」「和が好き」「着物が楽」ということもあるけれど、私の場合そういった欲求はなく、和全般に拘った興味もなかったし、着物の方が楽だとも感じなかった。きっかけがきっかけでもあるので、ちょっと違うようだということが分かった。

後に「ライフスタイルを取材させてほしい」というような依頼をいただいたが、話すほどに興味を失ったようで立ち消えになった(笑)「和」や「着物」というキーワードにイメージされるようなものと私はだいぶ違ったのだなとその時感じたことも覚えている。そんな「和」も「特別」もない日常を過ごす私だったが結局その後も家着物に縁がなかった。


よく考えると私の知人たちが家でも着物を着ているのか全く知らない。私と同じように「家では着ない」という知人はいるし、お客様の中には逆に「家でしか着ない」という人もいらっしゃった。みんなそれぞれのライフスタイルの中でどこで着物を選択しているのか、その理由も含めてなかなか興味深いなと思う。