36 祖父の亀甲を仕立て替え

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

​ある時「これ、着るか?」と父から渡された大島紬。聞けばいつの頃かに祖父が拵えた着物だと言う。

大島紬の定番柄の一つに「亀甲柄」がある。その名の通り亀の甲羅のような模様で反物の幅におおよそいくつの亀甲が入るかで「80亀甲」「100亀甲」「120亀甲」などと呼ばれる。贅沢品として過去結納などのお返しなどにも頻繁に選ばれた柄だ。

黒地に紺の絣が最もよく見かけるのだけれど、父に見せられたのはブルーグレーの地色だった。祖父が拵えたようだが着た形跡はほとんどないので傷みもなく綺麗な状態だったけれど、寸法が合わないので仕立て替えねばならない。かと言って喉から手が出るほど欲しいかという訳でもなく、どちらかと言えば苦手な色。もちろん祖父が着ているような思い出などもない。なかなかの代物ではあるけれど仕立て替えにもお金がかかる。果たして着るだろうか。そんな風に悩んだ末、仕立て替えることにした。着物生活者としてとりあえず枚数が欲しいという時期だった。

ところで、着物を仕立て替えるというのは着物の利点の一つではあるが、ちょっと難しい問題が起こる場合もある。

例えば仕立てた時期や着た頻度は重要で、痛みや退色、経年劣化などが起こっているとせっかく仕立て替えても強い筋が出たりすぐに破れたりと、仕立て替えのメリットは乏しい。また寸法を広げる場合は限界があり、希望通りにならない事も少なくない。その他にも裏地を付け替えたり染め直したりと思わぬ出費になることもある。だからいつのどんな着物であっても思うように仕立て替えできるわけではないので専門的なところ(着物小売店や仕立て・お直し店)で相談するのが良いだろう。ちなみに私は仕立ててある状態では判断できないので、いつも一旦解いてみて考える。祖父の亀甲もとりあえず解いてみたら状態が良く幅も十分だったので仕立て替えた。

しかしながら、悩んで仕立て替えた癖に、結局あまり着ていない。もしかして祖父も同じように思ったのではないか?と脳裏をよぎった。「これ、なかなか着こなせへんなぁ…」と。まあ、祖父には似合いそうなのだけれどね。

実際のもの。色はもう少し褪せた雰囲気。