37 着る勇気

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

​毎日着物を着るぞと決めた時に、「着物がちゃんと自分のものになるまではどんな所でも着物を着よう」と自分を縛り付​​けて逃げ場を断ってみた。そうすると実感するようになったのが「一人目の怖さ」みたいなものだった。

今まで着物を着なかったところにも着ていく。自分のライフスタイルに定着していないので、一人だけだと何となく気恥ずかしい。人の視線も気になる。目立ちたくないところでは尚更。例えば仕事で異業種交流会みたいなものに参加しても、しばらく落ち着かないし、スポーツジムや遊園地、健康診断なんかはますます気恥ずかしかった。(それぞれについてはまたいずれ)

こういう気持ちはしばらくして慣れると何とも思わなくなっていくし、仕事だとビジュアルで覚えてもらいやすいのでメリットも沢山あるのだけれど、慣れるまではちょっと誇らしくもモゾモゾした気持ちが勝っていた。それで着物をやめる私ではなかったけれど、業界で働く私でもこう感じるのだから、人によっては相当な「着る勇気」が必要なのだろうと容易に想像できた。

「着る時ないかもなぁ」と初めて着物を買う時に思う人もいるかもしれない。実は着る時はいつでもあるのだけれど、着る勇気が湧かない不安はよくわかる。そんな時に背中を押してくれるのが「そこにいるもう一人の誰か」だったりする。誰かと一緒なら安心。あの人も着物だから私も。そういう存在は大きいのではないかと思う。その「誰か」こそ業界の人が率先しないと、と考えてそれが私の根源の一つにもなっていた。まだまだ着物姿が少なかった。だから色んな所に着物で出掛けようと思っていたし、着ているよとWebに投稿もした。特にそういう動きが活発になりつつある時期でもあった。

慣れない間、「はじめの人」になるには勇気がいる。幸いにもあの頃以上に今のカジュアル着物は自由な発想で着られる環境だとは思うけれどそれでも躊躇することはあると思う。

「妻が着ていたのがきっかけで。」

ご夫婦でよく聞く着物事情だ。まさにこの「妻」こそが「夫」にとっての一人目。一人目の役割は二人目以降のライフスタイルすら左右する。だから二人目だった人も慣れてきたらぜひ一人で、一人目として出掛けてみてほしい。そんなあなたの着姿を見て、次は着ようと思う人がきっといる。いる?たぶん。

空港の国際線搭乗口で。着物の人はいなかった(2012年)