46 着物で散髪に行く

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

日々着物を着始めると、「日常なのになかなか着物では経験しないこと」が沢山ある事を改めて実感しながらそれらに挑戦することになる。先に投稿した「ちょっとコンビニ」もそうかもしれないが、今回のテーマ、美容室へ散髪してもらいに行くことにチャレンジ精神が少し必要だったのは、当時着物でそれが想像できなかったからかもしれない。2011年、着物を毎日着るぞと決めて間もなくの頃だった。尚、理容には着物で行ったことがないので髭剃りをしてもらったことはないし、理容によくある前のめりになるシャンプー台も経験していない。そしてそもそも散髪に着物で行かねばならぬ理由などないので、結論から言うと洋服で行けばいいと思っていることは付け加えておく。

私の想像と裏腹に、おそらく私がお願いする美容師さんにとっては何を着てようが関係のないことだったのだと思う。考えてみればその通りで、顧客が何を着ていても手順通りに髪を切るのだ。何か心配があるのなら顧客側が考えるべきことだとは思うのだけれど、そうはいっても顧客側としても少し「どうかしら」と考えることはある。当時の私も「どうかしら」と思いながら行ったのだけれど、特に変わった様子はなくいつも通りだった。「おや、着物ですね」という感想ぐらいで、いつもと変わらず安心した。反対に当時のアシスタントの方が「うわーいいですねー!!」と思いの外着物に反応されていた印象が残っている。「これはこうして大丈夫ですか」「こういうのはどこで売っているのですか」など質問攻めに、それはそれで有り難い限りではあったし、着物に興味があるのかしらと驚いたのだけれど、とにかく対照的な二人だった。経験のありなし、店長とアシスタントの違いだったのかもしれない。

はじめに「挑戦」「チャレンジ精神」などと表現したものの、よく考えてみれば立ち上がっている衿が邪魔になったりする可能性を考えると挑戦するのは美容師さん側である。こちらは時に岩のようにじっと座り、時に流木のごとく真っ直ぐ横たわっているだけだ。それなら洋服でいいのではないかと自分でも思うのだけれど、その時は「何が何でも着物だ」「これも経験だ」と思い込んでいたので、着物一択だった。そんな経験を経てわかったのは、私が洋服で行こうが着物で行こうがお願いしている美容師さんには関係なさそうだということと、強いて言えばもしも濡れたりしても大丈夫なようにこちらが考えておく、ということぐらいだ。私にはお太鼓もないし、衿も抜いていない。

もしも心配であれば事前に「着物で行ってもいいですか」と聞いておくといい。美容室によっては着物の着付けやヘアセットなどで着物自体に慣れていらっしゃるところもあるだろうから、大丈夫な気はする。が、よく考えてみると他の美容室に着物で行ったことがない。

あまり見掛けない光景だからこそ、他のお客様からの視線は気になることもあるけれど、それも仕方のないことかなと思う。ちなみに私が行く美容室はつい最近完全に個人サロンのような空間になったのでそれも気にならなくなって、もはやどっちでも同じであるのだけれど、わざわざ着物で行く理由は私にはないと思うのは初めに申し上げた通りだ。今後もその日着ているものでそのまま行くのだと思う。

その時の写真。鏡越し(左右反転しています)