45 ちょっとコンビニにも着物を着ていた

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

「​マンションの下にあるコンビニに行くだけでも着物を着ていました。」

そう言うと「凄いですね」と言われることがよくあるのだけれど、実は着物に慣れていて「あらそうですか」ぐらいに感じる人もおおいのではないかと思う。私自身にとっても日常着物に慣れて大したことではないと感じるようになっていたし、だからこそ出来たことだった。

そもそもなかなかの不精者の私が大したことない、と感じられるようになったのには二つの条件があったように思う。

着物はたとう紙などに入っていることが多く、たとう紙を開けて着物を広げて(干して)着る、帰ったらまた(干して)着物を畳んでたとう紙にしまうというルーティーン。しかしコンビニに行くぐらいでこれは面倒だと感じてしまう私。だからこのルーティーン上にある着物の場合はコンビニに行くぐらいでは着ないことが多い。

コンビニやスーパーへ行くだけにも着物を着ようと私が私自身に思わせるためには「吊りっぱなし、干しっぱなし」の着物が必要になる。だから実際「しまう着物」とは別に長押やクローゼットにハンガーで吊られたままの着物がある。それらは「おしゃれ着」という位置ではない「普段着」扱いの着物が多く、綿やポリエステルなどの手入れしやすいものや仕事上沢山着なければならないサンプル品などがほとんどを占めていた。

同時に帯も手に取りやすいところ(=その辺)にあるし、袴も一部はパンツやスカートなどを挟むタイプのハンガーでクローゼットに掛かっている。準備万端なのだ。これが私の第一条件。

もう一つの条件は「簡単に着られる」というスキル。いわゆる慣れである。プロスポーツ選手のような卓越した特殊な技術が必要なわけではない。昔はみんな着ていたのだ。だから着流しに角帯であれば何度か練習すれば僅かな時間で着られるようになるし、袴でも慣れればすぐだ。旅館の浴衣をと比べると帯が狭いか太いかの違いはあるけれど、言ってしまえばそれ程度の差。羽織物を一枚着るのに近い感覚でパッと羽織って帯を巻けば着流し姿は完成する。当社の角帯型ベルトを使えばさらに簡単だ。

もちろん専用の肌着着て、足袋履いて、襦袢着て、あれが気に入らない、これがこうかしら…という工程を通過すればその時間は加算されるのだけれど、ちょっとコンビニ程度なら考えないし、コーディネート云々も含めそういう日常着はある程度のことが自分なりに決まっているので迷うこともない。

ちなみにそういう話をすると「男物はいいわね」と言われるけれど、お端折り、抜衿のいわゆる女物でも普段着物の方は多い(むしろそちらの方が多いかもしれない)。結局はどう生活に着物を使うかという気持ち(動機)と自分が自分に課す条件の違いによるのだろうなと思う。

Tシャツとステテコなどで開(はだ)けない工夫さえすれば男女問わずに着流しスタイルを着ることもできる、ということは付け加えておきたい。実際に知り合いにもいらっしゃるし、なかなか素敵だ。私としても同じものを性別を超えて「これいいですね」なんて話ができるのでさらに楽しい(私自身はネーミング・通称なだけなので、性別関係なく着流しや袴が増えるといいなと思っている)。そういう着姿がお好きな方はぜひやってみてほしいなと思う。

とにかく難しそうに感じる着物だけれど、日常着については人それぞれ様々な工夫や方法があるのだと思う。私の中でおしゃれ着とは少し異なるスタンスのそれを知ることができたのは、外出は着物と決めて、日常着に取り入れようと積極的にしたからだった。

今は私自身の生活環境の変化と共に着物との距離も少し変わり、着物だけに拘らず様々なものを着るようになった。同時に吊りっぱなしの着物の数も少なくはなったけれど、日常着の着物は私のライフスタイルの一つとして、ただやみくもに着ていた以前より意味のあるアイテムとなっている。