72 決められた時期に決められたものを着てみる1 着物

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

袷、単衣、夏物(薄物単衣)を揃えた時のお話。

初めのうちは決められた通りに着ていた。6月単衣、7・8月夏物、9月単衣、それ以外は袷である。やってみると衣替えをピシッと出来る。それに伴って気持ちも切り替えられたのでこれこそ衣替えの醍醐味だと思っていた。いや、思い込もうとしていた。なんせムキになって毎日着ていたわけであるから、そこも半ばムキになっていた。しかしそれも1、2年で止めてしまったのは単純に暑さに耐えられなかったからだった。

5月までの袷。末頃になると単衣が待ち遠しくなる。暑さが苦手な人は5月に麻など夏物を着ると聞くので、そんな方々からは考えられないだろうが私はまだ大丈夫だ。ただしモフモフ?の生地などは暑そうなので着たことはなく、袷といえども多少自分なりの季節感を持っていた。羽織まで着ると暑い。

6月の単衣。これはなんだかんだと雨が多いのでそんなことよりも雨が嫌だと感じることのほうが多かった。確かに暑いけれどムシムシしているし、暑いのかムシムシが嫌なのか自分でわからなかったのだろう。ただ単衣が6月で終わって9月まで一旦休憩になると思うとそもそも引っ張り出すのが億劫になるし、仕立てる際はかなり勿体無いなと感じてもいた。

7〜8月の夏物。これは何れにしても夏物なので省略。出来るだけ涼しくしたい。

地獄は9月の単衣。絶望的暑さである。正直私が決められた通りに着ることに音を上げた最大の理由がこれだった。当時9月の出張が多くまだまだ続く炎天下で「どうして一人で我慢大会をしなければならないのか」と思ったことを覚えている。熱中症にもかかりそうなので、可能な限り避けることをお勧めする。

10月の袷もまだまだ暑いことが多い。当時9月を我慢して乗り切りやっと単衣が丁度良いかしらと思ったら10月になるその季節感にさらに単衣が勿体なく感じていた。「決められた通り着なければならないのなら、単衣は着ない」と思うほど単衣の季節が嫌だった。

結果、最初に申し上げた通り、やめた。確かにその日を境に着分けることで席替えや模様替えのような清々しさはあるけれど、それは各々がやりたい日でやれば良い。どこの誰だかが決めた自分のリズムと異なるルールで誰に迷惑を掛けることもないそれを守らなければならない理由は私にはなく、むしろ業界の一人としては体感に合わせて着るものを変えることを率先すべき気がした。熱中症は困る。

ただ、フォーマルはどうかというと、地域や会によるとしか言いようがなく申し訳ないのだけれど、ルールを基準に同席者や主催者などに相談するなりしてその空気感を読むしかない。私も何かに出席するたび、その時々の天候によりいつも判断に迷うが、カジュアルよりは決めごとを少々気にしている。その「決めごと」自体があやふやだったり難しかったり認識が違うことがあったりもするのだけれど。

5月後半、この文章を私は知人の告別式のために袷の着物と羽織を着て暑いなと感じながら推敲した。普段なら5月に袷の羽織は着ないけれど、これは決めごとに従ったまでだ。単衣のフォーマルは持っていない。

決めごとを少し気にしたとはいえ、会場に入る前に履き替えるはずだった足袋を履き替えずにそのまま入場し、ハッと気づいて慌てて控室を借りて履き替えた。ぎりぎりセーフということにした。

※来週はお休みです。