96 説明上手な人々

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

魔法ではないかと思うほど説明上手が着物の業界にいる。それも結構な人数に登るように思う。もちろんその説明との相性はあるけれど、とにかく説明が上手だ。

そもそも私は影響されやすいのかもしれない。一人暮らしして早々に家にやってきた自称地域の電気屋さんから換気扇のよくわからないフィルターを山盛り買ってしまったのも販売トークに影響されたからだった。二年後にマンションを出る際換気扇がことのほか綺麗だったのはフィルターというよりもほとんど自炊しなかったからだと思うし、ほぼそのまま残ったフィルターは次の住まいには使えず引越し先で廃棄したけれど決して悪いものではなかった(はず)。それ以降必ずレンジフィルターを使うようにしているので、今の住まいでも換気扇は比較的綺麗で、そういう色々含めて勉強代だったと思っている。

そんな私が新卒で入社した着物小売店。入社後ほどなくして接客の勉強を兼ねて先輩とお客様の会話を横で聞いていた。普段から店で見ていた着物なので知識は多少頭に入っていたが、先輩がお客様にする話を聞いているとどんどんそのワールドに私も引き込まれていき、終いには「なんて素晴らしい着物なんだ!!!」と感動し、女物の訪問着なのに「いいなぁー!これが着られるなんて羨ましいなぁ!」と思ったのを覚えている。結局そのお客様は買わなかったのだけれど、お客様の事情はさておき、「あの着物は絶対買うべきやな」と勝手に感じていたけれど、説明が下手な私はその着物の良さを先輩のようには伝えられなかった。

もう業界にはいらっしゃらない先輩と同じように、展示会などの作家コーナーの人たちも説明が上手い。聞く度に「え?そんな手間のかかることを!」などといちいち思いながら「いいなぁ、凄いなぁ」と感動する。自分が説明する側になったことももちろんあるけれど、そんな時も他コーナーの方が説明される内容に聞き耳を立て「これは欲しくなるなぁ」と思っていた。幸い男物が少ないので自分で買う事は少なかったけれど、お客様に自社商品以外をご紹介したことも結構ある、とんだお節介野郎であった。

販売については各小売店のカラーによって様々ではあるけれど、いずれにせよ商品説明を聞くのは面白い。感動する癖に聞いても「あれ?なんて言ってたっけ?」と、全然覚えていないけれど製品の背景にある者たちをこれでもかと上手に伝えてくる人たちに会うことで製品の魅力は格段に上がる気がする。

(次週はお休みです)