98 洋服と買い物の楽しさの先に生まれたもの

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

洋服を着るようになり、買い物が楽しくなった。長らく着物ばかりでアパレル用品を買わなかった私だけれど、考えてみれば着物の買い物というと結局業界内で催事の合間なんかに買ったり業者に赴いたりして普通のお客さんとして買い物をすることはなかったので久々の感覚だった。

そういえば、学生時分はファッション雑誌を読んで「あれも欲しい、これも欲しい」と物欲を増大させたり、「今日は買い物をするぞ!」と意気込んで友達と京都だけでなく大阪まで買い物に出掛けたりしていた。友達とああでもないこうでもないと言い合い、お互い何故か買ったものをそのまま着て帰ったりして楽しかったことを思いだした。買い物はイベントだったけれど、着物を着て販売側になりそんなことをすっかり忘れていた。

子供連れだとゆっくり服を見るなどは出来ないけれど子供を妻に託して一人買い物に出掛けることもしなかったので、チラリと目に入ったものをパッと買ったり、夜な夜なネットショップを検索したりしていた。それでも洋服のやり直し、一から揃えるそれは新鮮で楽しかった。そういえば着物だって楽しく買い物をしていた時期があった。

ある時買ったカーディガンに、ふと「着物の中に着たら温かいんじゃないかしら?」と思いついた。オシャレというより寒さ対策だった。洋服を着るようになるまで洋服を着物に取り入れようと思わなかったのは正統派への憧れ(95 自由でいいじゃないかと思い至る)だけではなく、新しい洋服を買うことがないのでその発想が枯渇していたことも大きかった。それが一転、手持ちの洋服を取り入れてみようと思ったのはまさに偶然の産物だった。

着てみると思った以上に温かい。これはいい。けれど中に着るなら外に着たい。外に着るなら…と発想はあっちこっちに広がる。良し悪し、着るべきやるべき。これまで自分が着る着物に対してそんなことを考えてたけれど、この頃にはもう理屈は何でも良かった(というと語弊があるかもしれないけれど)。売れるかどうかの予測も今まで以上につかないものではあるけれど、とにかく私が欲しい物を研いで形にしていくその過程も含めてとても楽しかった。

これが私の着物だとその時に感じた。誰か同じように気に入ってくれる人がいたらいいなと思った。そうしてカーディガンは完成した。

ニットカーディガン Earl(アール)。ユニセックス。