男と着物15 しばらく結んでやめた片ばさみ

​片ばさみを教えてもらった私。(14 片ばさみを目撃する参照)なんと簡単な結び方かと驚きつつ、正直なところしっかり止まるのだろうかという疑心もあった。けれど当時きもの駆け出しの私にしては「周りで見かけない結び方」というのが重要で、これに勝るような結ばない理由はなかった。

たまたま私が持っていた帯は滑りにくい質感だったが、それでも片ばさみは弛みやすい。たまに結びを気にして締め直さねばならないという点でその頃から不満はあった。帯の質感によって片ばさみの弛みやすさは違うのだが、当時はそんなこと知らない。その私に片ばさみを教えてくれた『片ばさみ上司』が「いい帯ならしっかり締まる結び方が片ばさみだ」と半ば適当に私に言ったものだから、自分の帯も良い物だと思いたくてますますその結び方に固執していった。今の私感ではいい帯と片ばさみに全く因果関係はないのだが、その時の私にとっては知らない事を知っていた『片ばさみ上司』はまるで達人だったので、「その通りなのだろう」と素直に信じたわけである。

それから5年以上にわたり、私の帯結びは片ばさみだった。とにかく人と違う事が良く思えた。結ぶのもバランスも簡単。弛んできて締め直すのにも慣れた。

ただ、次第に締めなくなったのも私なりの理由である。弛みやすさはには慣れたものの締め具合が気になって帯をよく触ることで手垢などが付き、気に入っていた帯が傷んできた。そしてそれ以上に貝の口にはないグシャっとした部分の存在にずっと納得できなかった。結局その帯の傷みをきっかけに結び方としても飽きてしまったし、その頃ぐらいには「人との違い」などもどうでもよくなっていた。『片ばさみ上司』との縁もなくなり、いい帯と片ばさみに関係がないのもわかった。固執する理由がなくなったのである。

「人と違う」ばかりで結んでいた片ばさみ。今となれば珍しくもなく、私自身も結ばなくなった。何年かしてから知ったのは結び方を工夫すること。気に入らない部分を自分なりに変えれば袴下などに使えることを教えてもらった。帯結びに慣れれば今ある結び方の気に入らない部分を工夫して、自分なりの結びを考えてみるのも良いと思う。

↑一度結んだ後のタレを片ばさみのように内側に突っ込まずに上からかぶせて挟んだだけ。教えてもらってから袴下に愛用中。袴の紐で縛られるので弛まないが着流し時には使わない。

2021年03月22日 | Posted in 男と着物 - 回想録 - | | Comments Closed 

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