16 私の着物は日用品感覚だったお話

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

​着物小売店に入社し、着物を少しずつ着るようになった私。段々慣れてくると人の着ているものが気になり始める。出張などで他店の店員さんを見かけると、何を着ているのだろうとジロジロ見ていた。ジロジロ見ていると接客業のくせにボーっと突っ立って怖い顔するなと怒られた。

案外知られていないかもしれないが、着物を一番買うのは店員さんと言っても過言ではないほど着物を沢山買う店員さんは多い。皆色々な着物を着ているが、「また買っちゃった」「私が買っても良いですか」などの声を催事の度に頻繁に聞いた。事情は様々であるがお店の責任者に「しばらく我慢」と宥められている人も意外と多いのではないかと思う。当社のスタッフでも出展者として参加しながらそこで他社商品を購入することもよくあるし、毎日着物を着るようになってからは私も色々なものを購入した。着物に興味があって、毎日囲まれていて、新しいものをたくさん見ていると欲しくなるのは当然かもしれない。

一方で私の場合、毎日着物を着るようになる2011年頃までは「着物は仕事、消耗品」的な感覚が強く、私自身が買って楽しむものという意識を特に高価な伝統的工芸品や作家物には持っていなかった。だから特価品のポリエステルなどを見つけたときには大変有り難かった記憶がある。安いから買っておこう、という日用品感覚である(集客用などは当時驚くほど安かった)。無論、私のようなものを想定して作られている反物ではないので、必死に探してみるがほとんどが苦手な柄。結局は「まあ、これでいいか」で購入するので日用品感覚が余計に増す。そんな感じで洋服とは異なり、日々の着物と自分のファッションにはあまり繋がりを持てなかった。また、ハウツー先行、「こうあるべき」的なカチコチ脳だったこともあり、楽しむ人の影響を感じられるような自分でもなかった。

良かったことは、そんな私が購入したいくつかポリエステルの着物が「着物=高価」ではないと認識出来たきっかけになったことだ。その感覚はやがて私と着物の関係を変えていくのだが、それはまだ先のこと。当時人の事は気になるし、立ちつくしてジロジロ見ては「仕事しろ」と怒られながらも買う着物については大きく影響されず日用品でしかなかった。

昔着ていたポリエステルの着物。今は寸法確認用。