80 煙管(きせる)を試して

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

話は逸れるが、2018年の8月まで私は愛煙家だった。今でもタバコの煙は嫌いではないし、いつかまた喫煙したいなという思いが脳裏を過ぎるけれど、そもそも喉が弱い私は喫煙を復活する気になれず、それ以来禁煙中だ。

さて、タバコというと煙管(きせる)が着物と結びつく方もいらっしゃるかもしれない。私もなんとなく花魁などが嗜むイメージはあったけれど、実際の煙管は見たことがなかった。

着物を着てイベントに足を運んでいると、和に精通した方や違う分野の和を生業とする方、例えば仏教や神道、建築、書道や茶道、扇子や髪飾り、刃物に三味線など様々な方に出会う。また自分のキャラクターとして和の取り入れ方にこだわる方など、とにかく今まで知らぬコアな世界に突然出会うことがある。喫煙所に出掛けて何度か見かけた煙管もそんな拘りの方々によるものだった。一服というほどに直ぐに燃え尽きるそれに、はじめは面倒そうだとしか思わなかったけれど、拘る姿は格好いいなと思った。

存在を知ってからしばらく後に、あるイベントで体験させてもらった。少し興味が湧いた所で、別の日に比較的親しい友人がおもむろに取り出して喫い始めたのを見て影響され、やってみようかなと思った。恐るべし体験イベントと知り合いの力。(着物も同じかもしれない)煙管自体をどこで購入したのか覚えてないが(タバコ屋さんかネットだったと思う)葉はタバコ屋さんで販売されていたし、紙巻きタバコの葉も代用していた。

使ってみると、使い捨てないのが良いなと感じた(定期的に掃除が必要)。燃えカスを捨てればフィルターも何もない。また煙管自体の長さや太さ、デザインはもとよりそれ以外のグッズ的なものを探すのもなかなか楽しい。一度に長く喫煙できないけれど、一度火をつけてすぐ消すタイプの喫煙家には良さそうだと感じた。

ただ、違和感のなかった肝心の味ではあるが、それでも私の中で今までのタバコには敵わずそれが恋しくてわざわざタバコをはさみで切って煙管で喫煙してみたりもした。最終的には半年ほどで普通のタバコに戻ってしまった。

嗜む人たちは素敵だったけれど、憧れたように私は使いこなせず、嗜む人を目で見て愛でて羨ましがるぐらいが丁度良かった。結局その後に電子タバコになり禁煙することになるので、遅かれ早かれ煙管との縁は切れていたのだろうが、経験してみて知ることができたことにはとても感謝していて、それはやっぱり着物から繋がった縁によるものだったと思う。

ちなみに花魁などが、灰を捨てるのにカンカンと煙管を火鉢などに打つイメージがあったが、煙管が痛むからやめたほうがいいと教えてもらった。煙管初心者で終わった私だったけれど、熟練者に色々聞いてみるのもその世界を垣間見えて面白い。