81 着物を掛けっぱなしにしたい私1

男と着物 - 回想録 -

投稿者:ウエダテツヤ

着たあとに干して畳んでタンスにしまう。着物にはよくある流れだ。私も着る頻度の少ないものはそういう流れになる。しかし日々着るものになると、面倒になってしまう。そもそも「干して」の段階で少し思案する。着物を吊り下げる場所が意外にないからだ。

昔住んでいた部屋ではドアのヘリ(細い所)に頑張って掛けていた。掛けられるのもせいぜい1~2枚。安定性はすこぶる悪いので、急に「バサッ!」という音とともに着物が落ちることもよくあった。不審な動物のようでドキッとする。着物が吊れる高い日陰の物干しなどはなかなかないだろうし、部屋の中というと余計に難しい。(お端折りありの寸法だとさらに着物が長いだろうから悩ましいのは容易に想像できる。)それでも当時はたまにしか着物を着なかった私だったし、小売店勤務時は店舗に出勤してから着替えていたので、干すところが少なくても大して気にしていなかった。

それから10年近く経って、毎日着物生活を始めた頃。当時住んでいたマンションには和室があり長押が付いていた。恥ずかしながら長押という存在を知らず、ある日他の細いヘリと同じ気持ちで使おうとして、あれ?これ引っ掛かるようになってるやんと気付いた。それ以来家の着物掛けスキルが格段にアップした気がした。私にとって和室の価値観がガラリと変わった瞬間だった。

面倒くさがりの私にとってそれは殊の外便利だった。調子に乗って着るたびにパッパと掛け、途端に日々の着物は掛けっぱなしになった。たまに着るものは干した後に畳むけれど、それでも小さな和室の壁際は満員になった。着物ハンガーは場所を取るので選ばれしものだけ。多くは洋服用のハンガーに、袴はスカート用のクリップのハンガーに挟んで掛けた。時々は掛け過ぎの着物たちとそんな自分にうんざりして畳んでみたけれど、結局着た後は長押に一直線。

そうして毎日長押に着物を掛けること4年、分譲住宅へ引っ越しすることにした。(つづく)