寄稿81 秋田県立美術館へ

寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

梅雨入り前に、秋田へ行ってきた。長引くコロナ禍でようやく実現できた現地取材のために。わざわざ空港までお迎えに来てもらい、恐縮しながらのスタートだった。さて、仕事の話はおいておき、宿泊先の目の前には秋田県立美術館があった。建築家・安藤忠雄さんの設計でも有名な美術館だ。そこで、藤田嗣治『秋田の行事』(1937年油彩・キャンバス 365.0×2050.0公益財団法人平野政吉美術財団蔵)を観てきた。2階の大壁画ギャラリーに展示されている作品だが、これでもかという大迫力の描写に圧倒された。また、特別展として、木版画家・川瀬巴水(かわせ・はすい1883-1957)の『旅と郷愁の風景』が開催されていた。以前、京都でも観た作品だが、「旅情詩人」「昭和の広重」と呼ばれる巴水だけに、庶民の生活が息づく四季折々の風景を描いた作品は、観るものに郷愁や安らぎをもたらしてくれる。有名な『東京二十景』や『旅みやげ』の作品が並び、京都を描いた題材も数多く、みごとな巴水版画の世界を堪能することができた。そして、この美術館のもうひとつの愉しみは、目の前にひろがる水のゆらぎに心がなごむギャラリーカフェ。そこは時の流れをまるで感じさせない癒しの空間だった。