寄稿101  夜の四条通をゆっくりと / 京を歩く

京を歩く寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

花見小路といえば、やはり夜の歓楽街のイメージ。個人的には、四条通の南側はお茶屋さん、北側はスナックやバー、ナイトクラブといった感じ。若い頃はネオンに誘われて、あちらこちらと顔を出し、ほろ酔い気分で歩いたものだ。仲間たちと知り合いの店でよく合流し、はしゃいだりした。今ではそういった店もすっかり減ってしまった。時代の流れなのか、なんだか淋しい気もする。

私の場合、祇園に京都デザイン協会の事務局があったため、会議や打ち合わせが終わると、おとなの世界へ連れて行ってもらった。祇園という街のいろんなところで食事をしたり、ピアノのあるラウンジで時間を過ごしたりした。そこでは業界のトップクリエイターや大学の先生などから、普段聞けない話をいろいろ教えてもらった。ふり返れば、自分にとっておとなの夜間学校だったのかもしれない。なかでも大好きだったグラフィック界の大先生をよく家まで送って行った記憶がある。それがなんと四条西洞院の北西あたり。しんしんと雪の降るなか、タクシーを降りて千鳥足の先生は家の前で降りた途端、転んでも笑っておやすみと片手を挙げた後姿が遠い記憶として残る。

時間軸を昼に戻そう。四条通には老舗といわれるお店も多い。だから歩くだけで目の保養というか、楽しい気分にしてくれる。あちこちに想い出のかけらがあるのは年齢のせいだろう。大和大路を渡り、西へ向かうとレストラン菊水がある。あの独特の外観、歴史ある西洋建築が目をひく。1階の喫茶室はよく待ち合わせを兼ねて使う人も多い。上では優雅に食事が楽しめる。ちょっとしたパーティ会場としても使用されている。そういえば、かつて京阪電車は鴨川に沿って地上を走っていた。私の知っている電車好きの男の子は、目の前を走り抜ける京阪を見ながら育ち、今では東急の電車を操っている。列車は夢を運んでいるんだなと、つくづく感じた次第。