寄稿122-s 「心が動くまま、感じた形を描いた」

寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

4月4日から京都市京セラ美術館(市美)で「日本画・石本正(いしもとしょう)」生誕100年回顧展が開かれている。数年前に中信美術館で展覧会があって喜んで足を運んで、浜田市立石正美術館(島根県)に行きたいと思いつつ、コロナで断念していたが、遂に京都で本格的な作品展が始まった。石本正さんは、浜田市生まれで、京都市立絵画専門学校(現・京都市立芸術大学)で絵を学び、舞妓や裸婦を描いた日本画家。文豪川端康成が「石本観音」と賞した官能的で霊性を帯びた舞妓や裸婦の作品が見どころのひとつ。有名な「五条坂風景」や「鶏頭」をはじめ、今回が初公開となる20代の油彩画や新たに見つかった初期の裸婦デッサンなども出品されている。かなり前に『絵を描くよろこび』という本を読んで、一気にファンになった私だが、この展覧会で役140点の絵画を通して何か会話ができたように思った。よかった。感激した。会期中、また寄せてもらうつもり。

向かいの京都国立近代美術館では「甲斐荘楠音(かいのしょう・ただおと)の全貌」展。こちらは日本の美人画の画家として知っていたが、その才能は絵画だけでなく、演劇、映画を越境する才能の持ち主だったことを教えられた。「描く人」「演じる人」「越境する人」「数奇な人」と四部構成で作品が展示されており、彼が手掛けた映画衣裳の数々が映画ポスターとともに展示されて見応えたっぷり。幼少の頃から歌舞伎の観劇を好んだ甲斐荘は、芝居には特別な関心を抱き、自ら女形として舞台に立った。そして、時代劇の風俗考証を手がけるようになったそうだ。彼の表現への意欲を強烈に浴びた展覧会だった。