寄稿者:橋本繁美
秋は夕暮れ
清少納言は枕草子の冒頭で「秋は夕暮れ―――日入りはてて、風の音、虫の音、はたいふべきにあらず」と喝破しているように、秋は台風の風の音と、虫の音楽で始まり、極まるといわれる。秋の夜、虫の音といえば、鈴虫(すずむし)や蟋蟀(こおろぎ)といった摩擦楽器の名手たちによる交響曲なのか。
秋分、次候は「蟄虫坯戸(むしかくれてとをふさぐ)」。自然に敏感な虫たちが、戸を閉ざすように、昼のぽかぽか陽気とはうってかわり、朝夕の冷え込みは否めない。夏の暑さと冬の寒さをつなぐのが「秋」とはうまくいったものだ。
気候の変化に富む京都では、日ごとに寒さが増してくる。肌身の寒さとは対照的に、少しずつ京の山々もおめかしをはじめる。そして、深まりゆく秋となれば、色彩の妙がおりなすあたたかな感動を心に届けてくれる予定だ。
萩(はぎ)
萩は秋の七草のひとつ。こぼれるように咲く可憐な花の美しさと、その旺盛な生命力を先人たちは愛でたのでしょう。萩は『万葉集』で、花のなかではいちばん多く詠まれており、その字もくさかんむりに秋と書いて表わし国訓で「はぎ」と読む。つまり、日本人が考えた国字だそうだ。京都で萩の名所といえば、「萩の宮」ともいわれる梨木神社。境内には500株以上の萩が植えられており、毎年9月末には、「萩まつり」で賑わう。ところで、同じ餅でも春は「牡丹餅」、秋には「御萩」と呼び名がかわるのも、季節感を大切にする日本人らしい習慣といわれている。
ちなみに、万葉集で山上憶良が指折り数えた秋の七草は、萩(はぎ)、尾花(すすき)、葛(くず)、瞿麦(なでしこ)、女郎花(おみなえし)、藤袴(ふじばかま)、朝貌(ききょう)。