寄稿者:橋本繁美 編集:枡儀
四条通大丸の北に錦小路通がある。西は高倉通から東は寺町通までが、アーケード街の錦市場。肩がふれあうほどの狭い道に、およそ120店舗がひしめいている。そこは旬の食材が並ぶ、京都きっての食品市場として活況を呈する。最近では、立ち喰いができる店や食品以外の店も増え、地元より観光客で賑わっている。といっても、鮮魚店や青果店、乾物屋など昔からの店が頑張っているから錦市場があると思う。
ここ錦市場といえば、伊藤若冲(日本画)が有名だ。青物問屋「枡屋」(家名と併せて通称「枡源」)の長男として育った。4代目枡屋となった彼は、絵を描くこと以外、世間の雑事には全く興味を示さず、商売には熱心でなく、芸事もせず、酒も嗜まず、生涯、妻も娶らなかったそうだ。「若冲」の号は、禅の師であった相国寺の禅僧・大典顕常あるいは月海元照(売茶翁)から与えられたといわれる。『動植綵絵』の「群鶏図」や樹花鳥獣図屏風など名作ばかりが目に浮かぶ。そういえば、友人の京都工芸繊維大学教授の中野仁人氏によって、若冲を使って錦市場の活性化されていたのを思い出す。今も続いていると思うが、あちこちに若冲の絵をモチーフにしたものがアーケード街にある。
平安京に生まれた錦小路通は最初からの通り名ではなく、当初は「具足(ぐそく)小路」と呼ばれたらしいが、天皇が綾小路があるのなら「綾錦」から錦小路にせよと命令をくだされた。平安末期以降は錦小路が定着し、江戸時代には多くの人が集まる市場となったそうだ。
東の寺町を越え、新京極まで歩くと菅原道真を祀る錦天満宮。南北のビルに鳥居が入り込んでいるのでも有名な神社だ。知恵、学問、商売繁盛の神として信仰があるところだ。願いごと、拝んでご利益かな。