寄稿29 蛇の目傘

京の旬感寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

ことしの梅雨入りは、例年よりはやかった。そのせいか、ここ梅雨の中休みが続いている。ここ数日は真夏を思わせる晴天が続いている。雨を楽しみにしていた紫陽花はちょっぴり困ったように見えたり、雨蛙も出番を待っているのかなと思ってしまう。京都で紫陽花といえば名所はいろいろあると思うが、個人的には伏見の藤森神社の紫陽花が好きだ。

その近くにある大学に通っていたとき、授業前にお気に入りのカメラで撮影するのが毎年の恒例だった。特に、雨上がりの紫陽花はみごとで、蚊に刺されることも忘れてシャッターを切ったものだ。一応、長袖とかジャケットを着ているのだが、蚊には好かれていた。

雨といえば、傘となるのだが、いつもビニール傘というのは寂しい。ましてや、きもの姿となれば和傘、蛇の目傘がよく映える。京のまちで、ときおり蛇の目傘をさした人に出会うと、なんだかうれしくなってくるのは日本人のDNAなのか。しっとりと映える緑の下、石畳の道をお気に入りの傘をさして歩く女性。傘の下の顔は見えなくても、なぜか親しみをおぼえてしまう。ま、見えてもマスク姿で残念。

男がもつ、骨が粗くて太いのが番傘で、女がもつ、骨の数が細くて多いのが蛇の目と、思われがちだが、そうではないらしい。番傘は、商家などで人に貸し出したりするのに紛失防止のため、屋号や家紋、傘の番号などを入れたのでそう呼ばれるようになったとか。いわば粗製の雨傘ということか。それにしても、小学校の置き傘は和傘だった。小さな手に、大きくて重たかったことは記憶から消えない。

ではなぜ、蛇の目傘といわれるようになったのか。昔、上物の雨傘の中心部分にロクロと外周に青土佐紙を張り、中間部分には白い紙を張って、それを蛇の目と呼んだ。輪の中心部に丸い目玉のような紋型。古来から大きな円の模様を蛇の目と呼び、神の遣いの蛇の目をかたどったことから、魔よけの意味もこめられているとも聞いた。蛇の目傘はひらくと円い輪形があらわれるわけだ。梅雨のさなか、雨ゴートに、利休下駄にむこうがけ、蛇の目傘。そんな雨の日の光景がよく似合っていた。むかしの話だ。

*蛇の目は日本の家紋「弦巻紋」の一種。