寄稿49 奄美の島唄・アシビ

奄美探訪記と大島紬寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

初めて奄美で島唄に出会ったとき、高音の裏声は哀感が漂い、聴く者の心を強く激しく揺さぶった。

歌詞はわからないのに胸に大きく響いたのを覚えている。神谷裕司著『奄美、もっと知りたい』(南方新社)の「島唄と新民謡」のなかで、明るい曲調が多い沖縄の島唄に比べて、奄美の島唄は悲しく響くと書かれている。それは、薩摩藩の支配下にあった時代、奄美には家人(ヤンチュ)と呼ばれる階層がいた。過酷な生活を強いられたヤンチュたちが、苦しさや悲しさを唄に込めたという説明がある。幼少の頃から父や祖父の島唄を耳にしながら育った奄美の人にとっては、とても大切な島唄であり、唄い継いでいくと同時に、新しい音楽としての出逢い、若い人々に受け継がれていくのだろう。その本のなかに島唄は「魂と魂の語り合い」、「島唄には人々の心を空っぽにする力がある」と書いてあった。思わず納得させられる言葉だ。

幼い頃から島唄で育った中村瑞希さんの歌声は、いうまでもなく最高だ。いまから10数年前に、茶木みやこさんとのコラボが奄美で実現できたのは、仕掛け人の上田さんのおかげである。『ばしゃやまビーチ特設会場』を皮切りに、ライブハウス『アシビ』でのコンサートの開催。その反響も少しずつ大きくなり、開催場所は奄美から京都へ。京都市内にあるライブハウス『拾得』で2年続けて盛り上がったのが昨日のように思える。このコラボを通して、京都や関西の人たちをはじめ、少しでも奄美の魅力を知ってほしい。伝えたいというのが主催者側の願いであった。

奄美大島には、ご存じの大島紬がある。泥染めの歴史は、1300年を超えるという。気が遠くなるような工程を経て、あの独特の黒が生まれる。それは艶やかな烏の濡羽色。自然という風土を相手に、こつこつと身を刻むような地味な工程を繰り返し、極限の精緻から生まれる染めと織り。人々の心を魅了する大島紬。その魅力はどこか島唄と共通するものがあるように思う。