寄稿66 ありがとう百貨店の大食堂 ・ 桃の節句

京の旬感寄稿記事-ことばの遊園地-

寄稿者:橋本繁美

ありがとう百貨店の大食堂

かつて、子どもにとって百貨店は夢の国だった。それは街にあり、エスカレーターに乗れて、おもちゃ売り場に行き、屋上の遊園地で乗り物に揺られ、お腹がすいたら大食堂で憧れの洋食、旗のついたお子様ランチ、ストローと長いスプーン付きのドリンク。美味しそうなサンプルが並ぶショーウインドーを眺めてメニューを選び、入口のカウンターで食券を買い求め、白い制服姿の店員さんに案内されて席へ。落ち着かず、子ども心に、隣の席をのぞき込んで行儀が悪いと親に叱られ、少しずつマナーを教わったところでもあった。まわりは買い物を楽しんだ大人や家族、カップルまで、みんなをハッピーにしてくれた場所。そんな京都大丸の大食堂が今月いっぱいで終わる。昔のスタイルで最後まで頑張ってくれた大丸京都店ファミリー食堂が110年の歴史に幕。昭和の香り、素敵な想い出をいっぱい残して姿を消す。さびしい話だ。

学生のころ、中元と歳暮の繁忙期にアルバイトでお世話になったこともあり、いちばん身近な百貨店だ。昔は四条通に、阪急、高島屋、藤井大丸、大丸が並び、京都駅前には、丸物(後に近鉄。今はなし)があって、若者ファッションや音楽など、青春とともに過ごしてきたところばかり。時には屋上で歌謡イベント、ラジオ公開生放送、ビアガーデン…。激動する時代とともに姿を変え、ニーズに対応すること難しさが、ひしひしと伝わってくる。どうかいつまでも、夢と憧れ、感動を与えてくれるデパートメントであってほしいと願うのは昭和生まれだけだろうか。

桃の節句

五節句の二番目「上巳(じょうし)の節句」にあたる三月三日。この日、中国には水辺で身体を清め、長寿を祈って桃の花を浸したお酒を飲み、災厄を祓うという風習があり、日本に古代から伝わる禊祓(みそぎはらい)の思想や、「人形(ひとがた)」を流す風習とが混じり合い、日本ならではの上巳の節句「雛祭」となったといわれる。桃の花は、魔よけの力をもつとされ、安産の象徴、長寿をもたらす神聖な花とされてきた。

節句のときに食べる菱餅は、ひし形をした三色のお餅。もともと中国では菱の実と母子草を材料に「子孫繁栄」や「長寿」という願いが込められて作られていたが、日本では、縁起をかついで季節の薬草「よもぎ」を使うようになったと書物にある。